数多ある銃の中で、中国と聞いてすぐに思いつくのはどの銃か。






わたしの場合は写真のそれ。銀色の長いヤツ。
なんていうモデルか、乳とお尻と脚から目を離して考えてみて欲しいんだけどさ。ちっこくて、アングルもあれなんで分かり難いかな。






正解はモーゼルM712。ドイツのモーゼル社が開発した自動拳銃。
全長:288mm,重量:1240g,使用弾:7.63×25mmマウザー,10発または20発入り着脱式マガジン使用。
1896年に製品化されたモーゼルC96をオリジナルとして、幾つも作られたバリエーションの一つであって、C96がセミオートなのに対し、フルオート射撃出来るように機能拡張したのがM712。
色んな派生モデルひっくるめて、モーゼルミリタリーという名前に馴染みのある人も多いのではないでしょうか。それなりのお歳の方には特に。
ちなみに、M712というのはアメリカの輸入業者が付けた名前。ドイツ本国では、一環してシュネルフォイアー(Schnellfeuer)と呼ばれていました。意味は「速射」。そのまんまですね。まさしく名は体を表すです。
※写真クリックで横にながーいの見られます。






自虐ネタが好きなわたしのこと故、この写真にどんなコメントを付けるかは想像つくよね。
なので、書きません。各自心の中で唱えておいてください。

さて、何故中国からモーゼルを連想するのかと言えば、大量に且つ長期間使われたという、至極真っ当な理由から。ネット情報を眺めてみると、1930年代に四十万丁以上のモーゼルC96とそのお仲間達が、中国にあった模様。
軍備の近代化に目覚めた中国(当時は中華民国)が、買い易いところから買えるだけ買って、自分らでも作ったれとガシガシ手を動かした結果みたい。
驚いたのは、中国人民解放軍がC96/M712の運用,コピー製造の実績を踏まえて、M712に似た設計の自動拳銃を1980年に開発し、正式採用してたってこと。どれだけモーゼル好きなん!だよね。






みんなのウィキペディアには、C96/M712を使っていた人達の記載があってね、興味深い内容でしたよ。
@ウィンストン・チャーチルが青年将校の頃、イギリスの銃製造メーカーを通して、個人的にC96を購入・所持していた。
AWWU当時、武装親衛隊とか降下猟兵とか、厳つい名前のドイツ兵がシュネルフォイヤーを使っていた。
B日本でも結構出回っていて、警察官の夫人達がモーゼルで射撃訓練している写真があったりする。

Aは全然普通。ドイツ製の武器をドイツ人が使っていただけ。ただ、降下猟兵なんて漢字書かれた日にゃあ、屈強で男臭さムンムンなゲルマン野郎共がわんさか押し寄せてきそうで、ドキドキするのな。
対して、@,Bは面白い。色んなことを想像させてくれます。
@の説明を読んで真っ先に頭に浮かんだのは、ジェームズ・ボンド。以前から、MI6のエリートがかつての敵国であったドイツのワルサーPPKを使うってのは、ちょっと節操ないんじゃね?と感じていたところ、「チャーチル、お前もか!」な情報が追加されたって訳です。
モーゼルC96が世に出たのは1996年。当時はドイツ帝国が台頭して大英帝国の地位を脅かし始めた頃。両国間で戦艦,巡洋戦艦の建艦競争を繰り広げ、行き着いた先がWWT。そういう、なんかやばいことになりそうな国の銃を持つというのはどういうことか、と。
チャーチルの気持ちを理解する為、もうちょい考えてみましょう。
彼が生まれたのは1874年。軍を除隊したのが1899年。とすると、C96を買ったのは、22歳から25歳の間になります。
うむ、若い。今の日本の民間企業なら、大卒で入社して二〜三年ってとこですよね。
この時期の男子なら、モノの良さを見分けられる情報収集力を持ち、惚れたモノならひたむきに努力し、背伸びをしてでも手に入れるという行動をとりがちだと思いません?
当時のイギリスの標準的な官給拳銃は、中折れ式のリボルバー。一方、C96は世に出始めたオートマチック式拳銃の中でもトップランナーと言える存在。スペックが高いのは勿論、設計の妙を感じる構造、人目を引く独特の外観、お値段もそれなりに高価という最新鋭モデルでした。これと比べたら、リボルバーのなんと前近代的なことか。
おそらくバイタリティもりもりだったチャーチルが、欲したとしても不思議じゃないですね。
突然ですが、わたしが社会人になってすぐの頃、車が欲しくなりましてね。始めは中古の安っすいセダンでいいやと思っていたものの、専門誌を読んで色々勉強しているうち、あるモデルにぞっこんきてしまいました。
「もうこれを手に入れるしかない」 ぞと。一年半の間死ぬほど貯金して、それでも足りずに銀行と生命保険屋でローン組んで、とうとうMy愛車をGETしたのです。
直列六気筒DOHC24バルブ+ハイフローセラミック・ボールベアリング・ターボチャージャー、アルミ製空冷式インタークーラー、四輪マルチリンクサスペンション、街中での燃費5〜6kmという新車を。
発注後、担当の営業さんから 「納車出来るよ」 という連絡を受け、ディーラー隣接の工場に行った時。逆光の中に佇み、リアをわたしに見せていた姿をいまだはっきり覚えています。
なんという存在感、なんという美しさ。運命的なものさえ感じましたさ。
もしわたしが自動車メーカーの社員であった場合、心底惚れてしまった車がライバルメーカー製であったらどうするか?
躊躇なくそれを買うでしょうね。チャーチルがモーゼルを購入した理由の一端は、わたしの考えに相通じるものであると受け止めておきます。

次にB。ウィキペディアに載ってた写真の出所は、労働経済社 「韓国併合と独立運動」 という本から。
1945年以前に撮られたもののようです。
中国軍が大々的にモーゼルを使っていたおかげで、満州事変,日中戦争で敵対していた日本に鹵獲品が大量に入ってきたんですね。C96だけでなく、シュネルフォイヤーも混じっていたのかな。
細かいことはともかく、数は十分揃っていたので、1940年に 「モ式大型拳銃」 という名前で準制式化されました。で、軍だけでなく、警察でも使われたと。
和装の女性が、横一列に並んでモーゼルを構えている姿は、なかなかシュールですよ。写真の中の人達は、皆さん若く見えます。二十代くらい。もちっと上の年代の方も訓練に参加したのかな。してて欲しいなあ。

長々と書いてきましたが、結局何が言いたいのかというと、@〜Bの人が居酒屋で飲んだ場合、モーゼル談義に花が咲くってことです。
ゲルマン青年とチャーチルと日本のおばちゃんが、ビールと焼き鳥で、C96を話のネタにして盛り上がるわけです。実際に使った者にしか分からない濃ゆい内容で。
チャーチルが、「ギネスくれ」 と譲らず店主を困らせたり。我侭言うなと、おばちゃんにぶっ飛ばされて、カルピスチューハイにしたり。実に有益な飲み会だと思います。
ちなみに、わたしは 「ギネス」 も 「ピルスナー」 も大好きです。






写真の中のモーゼルM712は、マルシン社製のガスガン。
ブローバック機構の無い固定スライドモデル。本物のM712はフルオート射撃可能だけど、こちらは単発式。
かなりの落差あり。
だけど、この製品が発売された当時は、手軽に買えるモーゼルのガスガンなんてなくてね。よくぞ作ってくれましたってもんですよ。後先考えず飛びつきました。
世にモーゼルファンは多いのか、マルシンからは引き続いて様々なM712バリエーションが商品化されて、最終的に ”ブローバック機構+フルオート射撃+ヘビーウェイト材質” という、めっちゃスペックUPしたモデルにまで到達しました。わたしがトイガン投資をあと数年続けることが出来ていたら、M712を買い替えてたかも。
モーゼルC96/M712の実銃に、わたしが持ってるようなピカピカのシルバーモデルがあったかどうかは寡聞にして知りません。トイガンだけのお遊びじゃないかと。
でも、チャイナドレスにはこれくらいのケバさが似合うでしょ。絵づら的に、黒くてでかい塊とは間違いなく相性悪そうだしね。






さらに、より中国らしくしたのが上の図。モーゼルをゴールドにしてみましたさ。
黄金銃を持つ女装さん。もっと詳しく表すと、黄金銃を持ったかわいい女装さん(^-^)
まあ、それはいいとして、赤と金はどちらも中国では縁起が良いとされる色です。二つ合わさって、縁起イイの二乗。
保守的日本男子としては、中国に対して日々思うところがあるけれど、女装すればみんな言動も変わるんじゃないかなあ。中国のあの人も、日本のこの人も、誰も彼も女装してお話ししてみれば?

2003.8.13